東京高等裁判所 平成5年(行ケ)216号 判決 1996年11月19日
福岡県久留米市野中町865番地
原告
木下株式会社
同代表者代表取締役
木下勇
同訴訟代理人弁護士
青柳昤子
同弁理士
柳田征史
同
川野宏
同
梶原克彦
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
佐野遵
同
青山紘一
同
幸長保次郎
同
吉野日出夫
同
関口博
主文
特許庁が平成3年審判第16242号事件について平成5年10月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和62年12月2日、名称を「葬儀装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭62-306599号)をしたが、平成3年6月18日拒絶査定を受けたので、同年8月12日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第16242号事件として審理した結果、平成5年10月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月15日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
祭壇に設置された一のスクリーンと;
このスクリーンに故人の遺影を映写するスライド映写装置と;
上記スクリーンに故人に関する動く映像を映写するビデオ映写装置と;
式の進行又は内容に伴なって上記スライド映写装置及びビデオ映写装置を直接又は間接に操作する操作手段と;
を備えた、
葬儀装置。
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対し、本願出願前に頒布された特開昭61-176313号公報(以下「引用例」という。)には、「祭壇表示装置である映写用スクリーンと、該スクリーンに映像を表示させる映像装置と、該映像装置を制御する映像制御装置とを有する、祭壇映像装置。」が記載され該「映像装置」の実施例として、「宗派に応じた祭壇映像、宗派別神社・仏閣、宗派ゆかりの自然環境等」を表示させる「スライド映写装置」と「磁気記録再生装置」が記載されている。
(3)<1> 本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の「祭壇表示装置である映写用スクリーン」、「映像制御装置」、「祭壇映像装置」、および「磁気記録再生装置」は、本願発明の「祭壇に設置された一のスクリーン」、「操作手段」、「葬儀装置」、及び「ビデオ映写装置」にそれぞれ相当し、本願発明の「スライド映写装置」も「ビデオ映写装置」も、「映像装置」の一種である。
<2> したがって、両者は、
「祭壇に設置された一のスクリーンと、このスクリーンに映像を映写する映像装置と、式の進行又は内容に伴なって映像装置を操作する操作手段とを備えた、葬儀装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
映像装置が、本願発明では、スライド映写装置及びビデオ映写装置を併用し、スライド映写装置は故人の遺影を、ビデオ映写装置は故人に関する動く映像を映写するのに対し、引用例のものは、該2つの映像装置を併用することについての技術思想はなく、また、映写するものが、宗派に応じた祭壇映像、宗派別神社・仏閣、宗派ゆかりの自然環境等である点。
(4)<1> 相違点について検討する。
A スライド映写装置及びビデオ映写装置という2種類の映像装置がいずれも引用例に記載されている以上、これらを併用することには何らの困難性も認められない。
B しかも、一般に葬儀において、祭壇に故人の遺影を設置することは広く行われていることであるから、これをスライド映写装置によって映写するようにしたことに格別の意義は認められない。
C また、人生の節目を飾る結婚式やその披露宴等の式典において、主人公のそれまでの人生の記録を8ミリフィルムやビデオ映写装置による動く映像で紹介することも、スライドの映写と同様によく行われていることであるから、人生の最後の節目を飾る葬儀において、ビデオ映写装置を使用して、故人に関する動く映像を映写する程度のことは、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
<2> そして、本願発明がこれらの構成を採用したことによる作用効果も、格別のものがあるとはいえない。
(5) したがって、本願発明は引用例に記載された技術、及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)は、認める。
同(2)のうち、「該映像装置を制御する映像制御装置とを有する」点は争い、その余は認める。
同(3)については、<1>のうち、引用例記載の磁気記録再生装置が本願発明のビデオ映写装置に相当すること及び「本願発明の「スライド映写装置」も「ビデオ映写装置」も、「映像装置」の一種である」ことは認め、その余は争う。<2>のうち、両者は、「祭壇に設置された一のスクリーンとこのスクリーンに映像を映写する映像装置と、式の進行又は内容に伴なって映像装置を操作する操作手段とを備えた葬儀装置。」である点で一致することは争い、その余は認める。
同(4)<1>については、Aのうち、「スライド映写装置及びビデオ映写装置という2種類の映像装置がいずれも引用例に記載されている」ことは認め、その余は争う。Bのうち「一般に葬儀において、祭壇に故人の遺影を設置することは広く行われていること」は認め、その余は争う。Cのうち、人生の節目を飾る結婚式やその披露宴等の式典において、主人公のそれまでの人生の記録を8ミリフィルムやビデオ映写装置による動く映像で紹介することも、スライドの映写と同様によく行われていることは知らず、その余は争う。同(4)<2>は争う。
同(5)は争う。
審決は、本願発明と引用例記載の発明との一致点の認定を誤り、また、本願発明と引用例記載の発明との相違点についての判断及び作用効果についての判断を誤った結果、本願発明の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
<1> 審決は、引用例記載の「祭壇表示装置である映写用スクリーン」が本願発明の「祭壇に設置された一のスクリーン」に相当すると認定し、両者は「祭壇に設置された一のスクリーン」の点で一致すると認定したが、誤りである。
本願発明は、祭壇そのものは実在の祭壇の存在を前提とするものであり、かかる実在の祭壇内に従前の遺影写真に代えて一つのスクリーンを設置するものである。
これに対し、引用例記載の発明においては、祭壇に代えて設置される「祭壇表示装置としての映写用スクリーン」であり、祭壇映像を表示して祭壇そのものになるものである。
<2> 審決は、引用例記載の「映像制御装置」は本願発明の「操作手段」に相当し、両者は「式の進行又は内容に伴なって映像装置を操作する操作手段」である点で一致すると認定したが、誤りである。
本願発明の操作手段は、式の進行又は内容に伴って、スライド映写装置とビデオ映写装置とを切り替える操作をするものである。
これに対し、引用例記載の映像制御装置は、葬儀の式の開始前に、映像蓄積装置に収納された宗派別祭壇映像から所望の映像を選択して表示するだけのものであり、スライド映写装置とビデオ映写装置との切替え操作をするものではないし、式の最中において操作が行われることは開示も示唆もされていない。
<3> 審決は、引用例記載の「祭壇映像装置」は本願発明の「葬儀装置」に相当し、両者は「葬儀装置」の点で一致すると認定するが、誤りである。
本願発明は、実在の祭壇内に設置された一つのスクリーンに故人の遺影と動く映像を切替え操作によって映写し、葬儀の式を執り行うという葬儀装置に係るものである。
これに対し、引用例記載の発明は、宗派別祭壇そのものを映像によって表示する装置であり、祭壇そのものである。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
<1> A判断について
審決は、スライド映写装置及びビデオ映写装置という2種類の映像装置がいずれも引用例に記載されている以上、これらを併用することには何らの困難性も認められないと判断したが、誤りである。
(a) 引用例にはスライド映写装置とビデオ映写装置の両方を同時に使用するとの技術思想は開示も示唆もされていないばかりか、使用する祭壇映像装置は一つのものであることを積極的に技術思想として開示しているものである。
これに対し、本願発明が祭壇に設置された一つのスクリーンに式の進行又は内容に伴ってスライド映写装置による故人の遺影とビデオ映写装置による故人の動く映像を両装置を切替え操作することによって映写するとの構成としたのは、葬儀の厳粛さを確保しながら故人の遺影映像と動く映像とを組み合わせることにより葬儀の参列者に故人を深く印象づける葬儀装置を提供することを本願発明の課題とし、遺影から視線を移すことなく祭壇内の故人の遺影が映写されたまさにその場所に故人の動く映像を映写し、あたかも遺影が動くとの強い印象を参列者に与えるという「遺影は固定したもの」との既成概念を打破した画期的な基本着想があったからである。引用例は本願発明の如き予想外の課題や着想を示唆するものではない。
(b) 被告は、装置を複合化して至便性や付加価値を高めることは広く産業一般に行われているから、複数の映像装置を使用することが引用例に記載されていれば、それらを併用することに困難性はない旨主張する。
まず、かかる主張は、審決の判断に示されていないから、本訴において主張すること自体許されない。
仮に主張することができるとしても、引用例からは、映写装置と映写スクリーンの1対1の使用しかなし得ないのであり、本願発明のように一つのスクリーンにスライドによる遺影映像とビデオによる故人に関する動く映像とを切替え映写せしめる操作手段とすることは、容易に想到し得るものではない。
(c) また、被告は、引用例にスライド映写装置とビデオ映写装置を適宜選択又は同時にスクリーンに投影して演出効果をあげるものとの周知技術を加えれば、式の進行又は内容に伴って上記スライド映写装置及びビデオ映写装置を直接又は間接に操作する操作手段とすることに困難性はないと主張する。
しかしながら、取消訴訟段階になって引用例に加えて新たな「周知技術なるもの」を援用して容易推考を主張することは、許されない。被告が提出する乙第5及び第6号証は、審判段階で審理判断されなかった公知事実との対比による理由を主張するものとして、許されない。
仮に主張することができるとしても、「スライド映写装置とビデオ映写装置を適宜選択又は同時にスクリーンに投影して演出効果をあげるもの」は、本願発明が属する技術分野において周知技術となっていたものではない。また、乙第5号証に記載のものは、ビアホールや喫茶店等における広告媒体等に用いられる投写型テレビ等に関する発明であり、葬儀の分野に関するものではなく、また任意に切替え操作するものではない。
<2> B判断について
審決は、故人の遺影を「スライド映写装置によって映写するようにしたことに、格別の意義は認められない」と判断したが、誤りである。
まず、「同一のスクリーンにビデオやスライドを映写すること」は本願発明の属する技術分野において周知技術であると主張することは、審決において判断されている事項ではなく、本件訴訟において主張することは許されない。
次に、本願出願当時、遺影は「写真」であることを当業者は固定観念として有していたのであり、しかも葬儀の式の最中において遺影を変化せしめるということ自体が発想もされ得なかったものであり、かかる技術水準下においては、遺影写真に代えて遺影を映写するために祭壇に一つのスクリーンを設置すること自体が発想され得ないことであり、またかかる祭壇に設置された一つのスクリーンにスライド映写装置で遺影を映写するということも、遺影を切り替え変化させるとの予想外の発想なくしては着想自体がなし得ないものであり、かかる何層もの発想の困難性からして、故人の遺影をスライド映写装置によって映写するようにしたことの困難性は明らかである。
<3> C判断について
審決は、「人生の節目を飾る結婚式やその披露宴等の式典において、主人公のそれまでの人生の記録を8ミリフィルムやビデオ映写装置による動く映像で紹介することも、スライドの映写と同様によく行われていることであるから、人生の最後の節目を飾る葬儀において、ビデオ映写装置を使用して、故人に関する動く映像を映写する程度のことは、当業者が容易に想到し得ることにすぎない」と判断したが、誤りである。
(a) 慶事における最も厳粛な儀式である婚礼と、弔事における最も厳粛な儀式である葬儀とは全く別異の儀式であり、両者間には、儀式の内容、進行、式場、装置についても何らの共通性がない。
また、披露宴は、単なる披露目のための宴会にすぎず厳粛な儀式である婚礼とも異なる。したがって、披露宴における事項はそもそも技術分野を異にする葬儀に適用する適格を欠くものである。しかも、審決が認定する8ミリフィルムやビデオ映写は、披露宴で余興として行われるものであるから、弔事である葬儀に適用する適性は全くない。
(b) 被告は、乙第7号証の1、2に基づく主張をするが、もとより周知技術などではなく、本訴において新たに追加主張すること自体が許されないものである。
しかも、乙第7号証の1、2のものは、葬儀の最中に遺影の写真を移動させ葬儀の厳粛な雰囲気を壊してしまうなど実際上の葬儀に使用できるものではない。
<4> 被告は、冠婚葬祭互助会を営む葬儀社は結婚式場も併設すること等を技術の転用が容易であることの理由として主張するが、本来は、冠婚葬祭互助会自体が葬儀冠婚業を営業するものではない。
また、本来、葬儀については葬儀専門の葬儀業者に施行を依頼し、結婚については結婚式を専門とする婚礼業者に施行を依頼するものであって、同一の業者が両方を請け負う場合であっても、葬儀と結婚式とは完全に区別されて施行されるものであり、所在地、設備ともに異なり、従事する人員も儀式の内容も異なるものである。
(3) 取消事由3(作用効果についての判断の誤り)
審決は、本願発明には格別の作用効果がないと判断したが、誤りである。
<1> 本願発明は、次の作用効果を有する。
(a) 故人の遺影を映写するスライド映写装置を具備しているために、解像力の良い静止映像で遺影を必要な時間映写することができ、またビデオ映写装置を具備しているために音声と共に動く映像を映写することができ、故人を鮮明に印象づけることができると共に会葬者に時間を感じさせることがない。
(b) 式の進行・内容に伴い、スライド映写装置によって故人の遺影が映写されるのと同一の祭壇に設置された「一のスクリーン」上に、ビデオ映写装置による故人の動く映像を瞬時に切り替えて映写することができるために、あたかも遺影が動き出したかのごとき効果を生ぜしめ、参列者に故人を深く印象づけ、故人を深く理解し身近に感じさせることができる。
(c) 祭壇に設置された「一のスクリーン」に故人の遺影及び故人の動く映像を切替え映写することができるために、ヒデオ映写用のスクリーンを遺影写真の前に別途設営して遺影写真及び祭壇を隠したりすることがなく、またビデオ用スクリーンを設営するために遺影写真そのものを上下あるいは左右に移動せしめたりするということがない。
遺影写真と別異の場所にビデオ映写装置用のスクリーンを設置することは、参列者の遺影に対する視線をそらし葬儀の厳粛さを損なうものであり、また遺影写真を隠したり移動したりすることも葬儀の厳粛さを損なうものであるが、本願発明によるときにはこのような故人の遺影のあるまさにその場(同一スクリーン上)に、動く映像が切替え映写されるものであり、参列者の遺影に対する視線をそらすことがなく、葬儀にとって重要な厳粛な雰囲気を確保しつつ、動く映像を映写することができる。
(d) 故人の遺影を映写するスライド映写装置と故人の動く映像を映写するビデオ映写装置を切替え操作で併用できるために、葬儀が予定より長くなりビデオ映像の映写時間と葬儀の式の時間が一致しなくなった場合には、スクリーンにスライド映写装置からの解像力の良い静止映像に必要な時間だけ切り替えて映写することができるため、厳粛な葬儀の雰囲気を確保しながら時間の不一致による空白時間を埋めることができる。
<2> 本願発明は、商業的に成功しているが、このことは本願発明の明細書に記載された上記の作用効果が現実に奏されていることを立証するものである。
(4) 取消事由4(本願発明の技術的課題の予測困難性についての判断の遺脱)
本願発明の出願時の葬儀装置の技術分野においては、従来は、「故人の写真を額に入れた」固定的な遺影を祭壇内に飾るのみで執り行われており(甲第9号証の1ないし89)、せいぜい故人の生前の音声が録音で流されるのみであった(甲第2号証2頁2行ないし15行、甲第9号証の1ないし89)。
また、葬儀装置の技術分野で従前知られていた技術としては、乙第7号証の2に示された技術があるが、これは祭壇にテレビ受像機を設置してビデオ設備から送られてくる映像を映すものの、故人の遺影については、従前の技術どおりに遺影写真をこのテレビ受像機の前面に配置するという構成になっている。したがって、テレビ受像機の映像を見るためには、前面に別途配置された遺影写真を上下又は左右に移動させる必要があり、このための大掛かりな装置を必要とする。また、葬儀式の最中に遺影写真を上下又は左有に移動せしめると、葬儀の厳粛な雰囲気を壊すという問題点があった。
また、人の死は突然であるところから、葬儀の準備は極めて僅かな時間で行う必要があるという、葬儀特有の問題点がある。このように極めて僅かな準備時間で編集したビデオ映像の時間と葬儀式の時間が一致しない事態が生じたときには、故人のビデオ映像が写らない空白時間が生じるという欠陥が避けられない。かかる欠陥の対策としては、一旦ビデオ映像停止させることが考えられるが、ビデオ映像を停止させると輪郭がギザギザとなった汚い静止映像が映写されるために、葬儀にとって重要な厳粛な雰囲気を壊すという欠陥があった。
また、引用例には、スライド映写装置又は磁気記録再生装置等を択一的に選択して使用して、スクリーンに祭壇映像を表示する装置が開示されているが、スライド映写装置を使用して祭壇を表示する場合には、スクリーンには祭壇の静止映像が映写されるのみで変化に乏しく、また磁気記録再生装置を使用して祭壇を表示した場合には、ビデオ映写時間と式の時間が一致しない場合の空白時間の発生と、静止映像を得るためにビデオ映像を停止させると輪郭がギザギザとなった汚い映像が映写されるために葬儀の厳粛な雰囲気を壊してしまうという問題点を有している。
本願発明の技術的課題(目的)は、上記のごとき従来技術の欠点を除去して、「葬儀にとって重要な要素である厳粛な雰囲気を確保しながら」、「故人の遺影たる静止映像」と「故人に関する動く映像」との2種類の映像を組み合わせる(葬儀式の式次第に合わせて2種類の映像を切り替えて映写する)ことにより、葬儀参列者に対して「故人」を甦る如くに鮮明に印象付ける葬儀装置を提供することにある(甲第2号証5頁8行ないし14行1頁下から4行ないし末行)。
本願発明の技術的課題は、出願当時の「葬儀」に対する発想を飛躍的に転換した発明者の独自の着想に基づくものであり、出願時にはかかる技術的課題を示唆する引用例も周知例も存在せず、また出願時の当業者の技術水準に比するとき、本願発明の技術的課題が当業者に容易に予測し得るものでないことは明らかである。
すなわち、引用例には、汎用の祭壇映像の事前準備以外には何らの技術的課題は示されていないのであり、葬儀の式の最中の式の進行に伴って用いられる葬儀装置に関しては全く無縁の技術である。また、本願発明の技術的課題が周知であることを示す立証は、一切なされていない。むしろ、当時の葬儀業界の当業者の技術水準は、せいぜい遺影写真を拡大したり、あるいは録音をながすことにとどまっていたものである(甲第9号証の1ないし89)。
しかるに、審決は、かかる本願発明の技術的課題の予測困難性については一切判断を行わずに進歩性を否定したものであり、この点において結論に影響を及ぼす判断を遺脱した違法がある。
(5) 取消事由5(本願発明の全体としての組み合わせに対する判断の遺脱)
本願発明は、祭壇内の一つのスクリーンに遺影及び故人の動く映像を切り替えて映写するという基本的着想によってすべての構成要件を組み合わせたものであるのに審決は、A判断、B判断、C判断の分断した判断のみを行い、本願発明についての全体としての組み合わせの困難性に対し、何らの判断を行っていない。
前記(4)で述べた本願発明の技術的課題の予測困難性は本願発明の全体としての構成についての予測困難性をも裏付けるものである。
被告は、「『スライド映写装置で何を映写するのか、ビデオ映写装置で何を映写するのか、』について、葬儀装置にビデオとスライドが組み込まれたものがあれば(引用例参照)、葬儀を演出するプロである当業者が、葬儀式での演出効果を上げるため、故人の生前の人柄や人徳を偲び、哀悼の意を表す弔辞などの際にはビデオで、故人の生前の映像を映写し、又、遺影が飾ってあった方が演出効果がある場面においては、ビデオを映写したスクリーンに、スライドで故人の写真を映写すれば足りるという程度のことは、容易に想到し得ると審決は判断したものである。」と主張するが、上記主張は、審決に記載のない理由である点で、本件取消訴訟において主張することはできない。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
<1> 最低三具足(香炉、花瓶、灯明)が備わっていれば
それは祭壇の一つといえるものであり、引用例記載の映写用スクリーンそのものが「祭壇」であるとの原告の主張は誤りである。引用例(甲第4号証)の第1図(別紙図面参照)における棺台2、棺1、花瓶3a、3b及び映写用スクリーン4を全体的に考察すれば、「祭垣に設置された一のスクリーン」がそこに記載されていることは明らかである。
<2>「式の進行又は内容に伴って、スライド映写装置とビデオ映写装置とを切り替える操作をする」などということは、本願発明の特許請求の範囲に何ら記載されていないものである。
また、操作手段が映像装置間の切替え操作を行うか否かは、複数の映写装置を併用するか否かにより付随的に生じる相違であって、相違点についての判断の中で判断をすれば事足りることである。
映像を変化させる時期についても、式の始めと終わりに操作することも、「式の進行又は内容に伴なって」ということができる。さらに、引用例の特許請求の範囲における「映像蓄積装置から所望の映像を選別し」が、複数の映像ではいけないという理由もないから、式の途中で映像を変化させることをも意図していると解することに何の問題もない。
<3> 原告は、審決で相違点として取り上げている構成要件をも含めて葬儀装置を定義して、審決が一致点の認定を誤っていると主張するものであり、審決に基づかない主張として失当である。
(2) 取消事由2について
<1> A判断について
(a) 装置を複合化して至便性や付加価値を高めることは広く産業一般で行われていることである(例えば、ラジオとカセットテープレコーダーを組み合わせたラジカセ)。したがって、複数種の映像装置を使用することが記載された先行技術文献(引用例)があれば、それらを併用することには何らの困難性も認められない。
また、スライド映写装置が静止画像を映写するのに適し、また、動く画像を映写するためにはビデオ映写装置を使用しなければならないということは、きわめて当たり前のことである。映像の表現手段として、静止画像と動く画像を組み合わせ、映像を見ている人に印象を深くすることは従来慣用(乙第3号証参照)されている表現手段にすぎない。
さらに、本願発明の実施例の「スライド映写装置とビデオ映写装置を切替え操作すること」を含む「スライド映写装置とビデオ映写装置を適宜選択又は同時にスクリーンに投影して演出効果をあげるもの」も本願の出願前に周知の技術である(乙第5、第6号証)。
したがって、引用例の実施例にスライド映写装置とビデオ映写装置が記載されていれば、それぞれの特徴を生かして、これらを併用することには何ら困難性がない。
(b) なお、発明の進歩性の判断は、技術水準を把握した上でなされるものであることから、乙第5及び第6号証は、本願発明がこれらに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと主張するためではなく、判断の前提となった本願発明の出願時点における技術水準(関連技術分野及び技術要素)を明らかにするために提出したものである。
<2> B判断について
葬儀を演出するプロである当業者が、葬儀式での演出効果を上げるため、故人の生前の人柄や人徳を偲び、哀悼の意を表す弔辞などの際にはビデオで故人の生前の映像を映写し、遺影が飾ってあった方が演出効果がある場面においては、ビデオを映写した同一スクリーンにスライドで故人の遺影映写するようにする程度のことは、同一のスクリーンにビデオやスライドを映写することが乙第5号証にみられるように周知のことであり、かつ、遺影をスライドで映写することも、遺影として故人の写真を飾ることが広く行われているものであって、しかも一般に、写真とスライドは同様な効果を奏するものとして知られているものであるので、容易に想到し得ることである。
なお、上記乙第5号証は、本願出願当時の技術水準を明らかにするものにすぎない。
<3> C判断について
結婚式や披露宴等の式典と葬儀は、人生の節目における儀式である。また、祝儀、不祝儀の違いはあるものの告別式は一種の「披露」である。ビデオの内容は、主人公の過去の映像であり、映像を見ることにより過去を懐かしむという同様の作用効果を狙ったものであることからして、両者は、同様の技術分野に属する。
また、葬儀において動く映像を使用して故人を効果的に偲ばせることは、本願出願前に知られていることである(本願明細書に先行技術としてあげられている乙第7号証の1、2)。
<4> 冠婚葬祭互助会を組織する葬儀社においては、おおむね結婚式場も併設していること、結婚式も葬儀式もどちらも宗教上の儀式であり、それぞれ、例えば仏式、キリスト教式、神式の結婚式と葬式が行えるように設備が用意されているものであり、当業者はその演出を行っているものであるから、演出手法の転用も容易になし得る。(3) 取消事由3について
原告主張の効果は、当業者が容易に予測できるものにすぎない。
<1>(a) スライドが解像度の優れたものであることは、広く知られているものである。ビデオ映写は、画像が動き音声があることも広く知られていることである。そして映像や音により演出効果を上げる、換言すれば、映写されるものを強く印象づけることも、一般に行われていることである。
時間を感じさせないという点は、専らビデオ映写装置によって映写される内容によるものである。
(b) 静止映像と、動く映像切り替えて映写すれば、止まっていたものが動き出したかのように感じることは、ごく自然な感覚にすぎず、格別のものではない。
(c) 同一のスクリーン上に、映像を切り替えて映写することは、従来周知(乙第5号証参照)の技術であり、スクリーンが一つであれば、スクリーンに対する視線をそらすことがなくなり、また、スクリーンを、スライド映写装置とビデオ映写装置で共用しているので、別のスクリーンを用意する必要がなくなり、スクリーンを用意するために、厳粛な雰囲気を壊すということがなくなるという作用効果も、極めて当然のことであり、格別のものではない。
(d) スライド映写に時間的な制約のないこと、ビデオ映写は内容によって映写時間が特定されることは、それそれの映像のもっている特性である。両装置を併用しているときに、時間的な制約を受けた場合、調整をスライド映写によってとるということは、ごく当たり前の操作にすぎず、この点に格別の作用効果があるとはいえない。
(e) なお、式次第、映写内容、更には弔辞の内容の結果としての効果は、特許が対象とする技術的な特徴に起因するものではない。
<2> 原告の主張する商業的成功が仮にあったとしても、それが発明の特徴、すなわち技術的な特徴に基づくものであって、販売技術、宣伝等それ以外の要因によるものないとはいえないから、これをもって進歩性認定の根拠とすることはできない。
(4) 取消事由4について
本願発明の技術課題が予測困難であるとは到底いえない。
葬儀において動く映像を使用して故人を効果的に偲ばせることは、本願出願前に知られている(乙第7号証の1、2)。また、静止映像と動く映像とを組み合わせて演出効果を高めることは各種の催し物において広く行われていることであり、そのための機器さえ開発されている(乙第5号証2頁左上欄2行ないし4行、左下欄14行ないし18行)。以上のような本願出願時の技術水準を考慮すれば、本願発明の目的ないし技術的課題は、当業者には容易に予測し得ることというべきである。
(5) 取消事由5について
審決は、多少舌足らずの部分はあるが、本願発明の個々の構成要素がこの分野において引用例及び周知事実より容易であって、本願発明は樹々の構成要素を単に寄せ集めたものであるから、組み合わせうことが容易であると判断したものである。
特に、C判断の部分においては、審決は、「スライド映写装置で何を映写するのか、ビデオ映写装置で何を映写するのか、」について、葬儀装置にビデオとスライドが組み込まれたものがあれば(引用例参照)、葬儀を演出するプロである当業者が、葬儀式での演出効果を上げるため、故人の生前の人柄や人徳を偲び、哀悼の意を表す弔辞などの際にはビデオで、故人の生前の映像を映写し、又、遺影が飾ってあった方が演出効果がある場面においては、ビデオを映写したスクリーンに、スライドで故人の写真を映写すれば足りるという程度のことは、容易に想到し得ると判断したものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)のうち、「該映像装置を制御する映像制御装置とを有する」点を除く事実、同(3)<1>のうち引用例記載の磁気記録再生装置が本願発明のビデオ映写装置に相当すること及び「本願発明の「スライド映写装置」も「ビデオ映写装置」も、「映像装置」の一種である」こと、同(3)<2>のうち、両者は、「祭壇に設置された一のスクリーンとこのスクリーンに映像を映写する映像装置と、式の進行又は内容にともなって映像装置を操作する操作手段とを備えた、葬儀装置。」である点で一致する点を除く事実は、当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
甲第2及び第3号証によれば、本願明細書及び図面(以下「本願明細書」という。)には、次の記載があることが認められる。
(1) 「従来の葬儀は、故人の写真を額に入れた遺影を祭壇に飾り執り行っているが、この遺影は固定的であり内容に変化がない。」(甲第2号証2頁2行ないし4行)、「実開昭60-191286号公報(注・本訴における乙第7号証の2)には、祭壇にテレビ受像機を設置してビデオ設備から送られて来る生前の映像表わすようにした装置が開示してある。また、同公報には、故人の遺影を示す写真をテレビ受像機の前面に配置すると共に、これを移動する装置も開示してある。・・・しかし、写真を上下または左右に移動させる装置は、全体として大掛かりとなるために、どこにでも設置できるというわけにはいかない。また、葬儀の最中に写真が移動すると、葬儀に集中できず、葬儀の厳粛な雰囲気をぶち壊してしまうという問題点もある。」(同2頁16行ないし3頁10行)、「人の死は突然であり葬儀の準備は、故人の死から式の開始までの僅かな時間で行なわれなければならない。従って式のリハーサル等はなく、直ちに本番となるために、予定通りに葬儀が終了することは少なく、長びく場合が多い。このため、上記編集されたビデオ映像の映写時間と式の時間とが一致せず、ブラウン管やスクリーンに映像が写らない空白時間が生じる。・・・ビデオ映像を停止させると輪郭がギザギザとなった汚い静止映像が映写されるために、葬儀にとって重要な、厳粛な雰囲気を壊してしまう。」(同3頁18行ないし4頁11行)、「特開昭61-176313号公報(注・本訴における引用例)には、スライド装置または磁気記録再生装置等を択一的に選択したものを使用してスクリーンに祭壇を表示できる装置が開示してある。スライド装置を使用する場合は、スクリーンには静止映像が映写されるのみで変化に乏しく、葬儀の参列者に故人を深く印象付けることはできない。また、磁気記録再生装置を使用した場合は上記ビデオ映写装置の場合と同様の問題点を有している。(同4頁16行ないし5頁6行)
(2) 本願発明は、本願発明の要旨のとおりの構成を採用したが、「スライド映写装置とビデオ映写装置は操作手段により、遠隔操作で作動することもできるし、直接に作動することもできる。映写ざれる内容は、スライド映写装置では遺影となる肖像写真や故人の略歴や業績を紹介するスライドが、またビデオ映写装置は生前故人の活動している姿が写っている映像が使用される。」(同6頁5行ないし11行)
(3) 「本発明は上記構成を有し、次の効果を奏する。
<1> スクリーンに故人の遺影を映写するスライド映写装置と、スクリーンに故人に関する動く映像を映写するビデオ映写装置とを備えており、遺影と、動く映像を同一スクリーン上に映写し、操作手段によって瞬時に切替えることができる。このように、祭壇に設置されたスクリーンには、スライド映写装置によってきれいな静止映像を、またビデオ映写装置によって動く映像を映写できるため、葬儀にとって重要な要素である厳粛な雰囲気を確保しながら参列者に故人を深く印象付け、しかも故人と面識がない参列者でも故人を深く理解し、身近に感じさせることができる。
<2> ビデオ映写時間の他にきれいな静止映像を必要な時間だけ映写できるスライド映写装置を備えている。このため静止映像である遺影をきれいに映写することができる。また、葬儀が長くなって、ビデオ映写時間と葬儀の式の時間とが一致しない場合は、スクリーンにスライド映写装置からきれいな映像を映写することができるため、厳粛な葬儀の雰囲気確保しながら時間の不一致による空白時間を埋めることができる。
<3> スクリーンを介して故人に関する情報を参列者の視覚と聴覚の両方に訴えることができる。これによって葬儀を単なる別れの式に終らせず、故人を知る参列者のみならず故人と面識がない大多数の参列者にも故人の印象を焼き付け、心の中に故人が生き続けることができるようにすることができる。つまり、スライド映写装置とビデオ映写装置という映像機器を駆使することによって、葬儀を故人が永遠の生命に生きられるスタートの儀式として位置付けることが可能になるばかりか、参列者に対しては、故人の死を通して自らの人生を顧み、見直す場とすることができ、葬儀の真の意義を高めることができる葬儀装置が提供できる。」(同12頁9行ないし14頁6行)
3 そこで、まず、原告主張の取消事由1(一致点の認定の誤り)の当否について検討する。
(1) 取消事由1<1>(祭壇に設置された一のスクリーンの点)について
<1> 甲第4号証によれば、引用例には次の記載があることが認められる。
(a) 「市町村の経営する火葬場など、いずれの宗教にも属し難い斎場では祭壇設備に困却する例が多く、・・・火葬場の棺1は棺台2の上に載置された状態のまま儀式が進められることが多い。また斎場によっては・・・壁面21に太陽像22や山岳像23を描き、花瓶3a、3bを置いて祭壇の代用としている。」(1頁左下欄19行ないし右下欄5行)、「本来、冠婚葬祭は本人及び関係者の所望する宗教儀式に基づいて実施されることが望ましいが、多数の異なった宗派の人々が利用する設備ではそれぞれの様式の祭壇を準備することは経済的に困難である。しかしながら、本人及び関係者にとっては場所を問わず、自己の属する宗派の儀式体様によって式が進めらることが望ましい。
本発明は、各宗派に応じた祭壇像を選択表示することができ、経済的に各人の宗教的要望を満足させることができる祭壇映像装置を提供することを目的とする。」(1頁右下欄7行ないし17行)
(b) 「本発明は、祭壇表示装置と、該祭壇表示装置に映像を表示させる映像装置と、宗派別祭壇映像を蓄積する映像蓄積装置と、該映像蓄積装置から所望の映像を選別し、前記映像装置に表示すべき映像を指令する映像制御装置とを備えた祭壇映像装置であって、任意の場所、任意の時刻において容易に各宗派に応じた祭壇を準備することを可能とする。」(1頁右下欄19行ないし2頁左上欄6行)
(c) 「第1図は本発明の第1実施例による祭壇映像装置の斜視図を示し、・・・図において、1は棺台、2は棺台1上に載置された棺、3a、3bは棺台1の近傍に配置された花瓶、4は祭壇表示装置としての映写用スクリーン、5は映写用スクリーン4に映像を投射する映像装置としてのスライド映写装置、6はスライド映写装置5(8は誤記と認める。)で投射されるべき、例えば仏教、キリスト教などの宗派別の祭壇の映像等のスライドが収納された映像蓄積装置、7はスライド映写装置5に必要な映写スライドを映写蓄積装置6から出し入れするための指令信号を映像蓄積装置6に供給する映像制御装置、8は所望の宗派祭壇映像の選択を映像制御装置7に指令する操作スイッチである。従って、第1図に示す祭壇映像装置によれば、操作スイッチ8からの指令により、宗派に応じた祭壇映像を簡単にスクリーン7に表示することができる。また祭壇の像のみでなく、必要に応じて宗派別神社、仏閣および宗派ゆかりの自然環境なども容易に表示できる。」(2頁左上欄10行ないし右上欄10行)
(d) 「本発明の装置によれば、映像蓄積装置に例えば信教、仏教、キリスト教などの種々の宗派別の祭壇の映像情報を蓄積させるほか、宗派別神社、仏閣および宗派ゆかりの自然環境なども映像情報として蓄積させることにより、必要に応じて宗派に応じた祭壇像を容易に映像化することができ、儀式関係者の所望する宗教的雰囲気を極めて容易に作り出すことができ、儀式にかなった式を実施することが可能となる。」(3頁左上欄18行ないし右上欄6行)
上記に説示の事実によれば、引用例記載の発明においては、映写用スクリーンは、棺台、花瓶とともに祭壇そのものとして使用されるものと認められる。
<2> これに対し、前記2に説示の事実によれば、本願発明におけるスクリーンは、故人の遺影と故人に関する動く映像を映写するために祭壇に設置されたものであり、祭壇とは別のものとして構成されているものと認められる。
そうすると、引用例記載の「祭壇表示装置である映写用スクリーン」が本願発明の「祭壇に設置された一のスクリーン」に相当し、両者は「祭壇に設置された一のスクリーン」の点で一致するとの審決の認定は誤りである。
<3> 被告は、最低三具足(香炉、花瓶、灯明)が備わっていれば、それは祭壇の一つといえるものである、引用例の第1図(別紙図面参照)における棺台2、棺1、花瓶3a3b及び映写用スクリーン4を全体的に考察すれば、「祭壇に設置された一のスクリーン」がそこに記載されていることは明らかである旨主張する。
確かに、乙第4号証の1ないし4によれば、最低三具足(香炉・花瓶・灯明)が備わっていれば、祭壇といえることが認められるが、「最低」が意味するところから明らかなように、三具足以外のものが直ちに祭壇を構成するものではないことを意味するものではないし、上記<1>に説示のとおり、引用例記載の発明においては、映写用スクリーンは、祭壇の一部として使用されるものであるから、その映写用スクリーンの果たす機能を無視して引用例記載の「祭壇表示装置である映写用スクリーン」が本願発明の「祭壇に設置された一のスクリーン」に相当すると解することはできず、被告の上記主張は採用できない。
(2) 取消事由1<3>(葬儀装置の点)について
前記(1)で説示のとおり、引用例記載の「祭壇表示装置である映写用スクリーン」は本願発明の「祭壇に設置された一のスクリーン」に相当するものではない。
そうすると、引用例の「祭壇映像装置」は本願発明の「葬儀装置」に相当し、両者は「祭壇装置」の点で一致するとの審決の認定も誤りである。
(3) 結論
以上の一致点の認定の誤りが審決の結論に影響することは明らかであり、審決は、その余の点について判断するまでもなく、違法なものとして取り消されるべきである。
4 よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面
<省略>